愛犬 しつけ

日本人は流行犬種に飛びつきやすい

 

最近私は不思議に思うことがあります。

 

どうして日本では、小型犬ばかりが目につくのでしょうか? わかりきったことだ。日本の住宅事情のせいだ。それも一因でしょう。しかし、私にはそれだけとはとても思えません。

 

言いたくはありませんが、私のような人間の眼には、ブームに乗りやすく大勢に流されやすい、という日本人の気質がそこにちらついているように見えるのです。

 

さらにいえば、大きなイヌをしつける自信を失っていることの(無自覚な)表明なのかもしれません。

 

この私の印象は、データでも裏付けられています。ある損害保険会社は、自社のペット保険に加入した「ゼロ歳犬」の人気犬種ランキングを公開しています。2010年の集計によれば、加入の多い順に、トイープードル、チワワ、ミニチュア・ダックスフントとなっていて、この「小型犬御三家」で全体の50%を占めています。4位にようやく「混血犬」がランクインしていますが、6%程度にすぎず、同社のホームページには体重10s未満という付帯事項がついています。

 

JKC(ジャパンケネルクラブ)の登録頭数に目を移すと、人気犬種のベスト10は、プードルの9万881頭を筆頭に、以下チワワ、ダックスフント、ポメラニアン、ヨークシャー・テリア、柴、シー・ズー、パピヨン、フレンチーブルドッグ、マルチーズの順となっています。プードルのほとんどは、流行したぬいぐるみのようなテディベアカットの「トイープードル」です。

 

JKCの登録頭数ベスト10は、ダックスフントの7万6711頭がトップ。シー・ズー、ゴールデンーレトリーバー、ラブラドールーレトリーバーが上位を占めています。

 

さかのぼってみましょう。1位シー・ズー、2位ジェットランドージープドック、3位シベリアンー(スキー。以下、ポメラニアン、マルチーズと続いています。

 

以前は今ではほとんど見かけなくなったシベリアン・ハスキーが1位でした。ブームに乗って飼い始めたものの、日本の気候に合わないばかりか、初心者には飼育が難しい面のあるハスキーを持て余した飼い主は夥しい数にのぼりました。各自治体の保健所は、ガス室に送られるハスキーであふれかえったということです。ちなみに、このブームには、漫画『動物のお医者さん』の中にハスキー犬が登場したことの影響が指摘されています。

 

この20年間をふりかえってみると、著しい変動といえます。

 

たとえば、最近ではチワワが、人気を誇っています。そうなったのは、テレビの影響に他なりません。CMで目新しいイヌが登場するたびに、「なんていう犬種なの?」と、視聴者から局やスポンサーに質問が寄せられるということです。

 

いったん特定の犬種に人気が出始めると、ブームを当て込んで人気犬種をむやみに繁殖させるブリーダーが現れます。流行犬種だけをあつかうペットショップも珍しくありません。珍しくないどころか、(ほとんど)みんなそうだというべきかもしれません。

 

また、「日本のイヌの場合、イヌの超小型化を追求した結果、同胎の子イヌの中でまともな生存能力のあるのは、1頭くらい。残りは、奇形や先天的な欠陥を持っている」と指摘するアメリカのジャーナリストもいます。この意見が、事実を正確に言いあてているかどうか、確かなデータが存在するわけではないので、はっきりしたことは言えません。

 

しかし実際日本では、流行犬種を短いスパンで大量繁殖させてきました。たとえば「ティーカップープードル」のような超小型犬をつくり出すために、きょくたんな近親交配をくり返しているのは事実です。

 

ところで欧米諸国の人気犬種はどうなっているのでしょうか? 日本のように突然ベストテンに入ったかと思うと数年で姿を消す、といったようなことはありません。イギリス、ドイツ、アメリカの人気ベスト3を例にあげれば、イギリスでは、@ラブラドール・レトリー
バー、Aイングリッシュ・コッカースパニェル、Bインクリッシュ・スブリンガースパニエル。

 

ドイツでは、@ジャーマン・シェパード、Aダックスフント、Bジャーマン・ワイヤー・ヘアードーポインター。

 

アメリカの場合、@ラブラドール・レトリーバー、Aヨークシャー・テリア、Bジャーマン・シェパードといったように、ほぼ固定しています。

 

アメリカの2位、3位は年によって入れ替わることがあります。ゴールデンーレトリーバーは上位ランキングの常連で、ベスト2に入る年もあります。しかしトップの座は不動です。

 

アメリカのケネルクラブの発表によれば、人気犬種ランキングで、ラブラドール・レトリーバーが19年連続でトップになったということです。

 

アメリカの場合は、営利主義に走るブリーダーも多いので一概に言えませんが、これらの国のブリーダーは、長年にわたり自分の好きな一つか二つの犬種だけを手塩にかけて育てる、というスタンスをとっているということです。

 

「生まれてすぐ」の子イヌヘのハンドリング

獣医師で、イヌに関する優れた著作のあるマイケル・フォックスは、新生児への適度な刺激が、将来、生理的ストレスに強いイヌをつくると説いています。フォックスが、「生まれてすぐ」の時期から4週齢までの子イヌに与える刺激として勧めているのは、次のことです。

 

毎日数分聞、なでたり、回転させたり、さかさまにしたりする。
冷たい床の上に1〜2分置く。

 

ジャーマン・シェパードの警察犬育成プログラムを担当した経験もあるドッグトレーナーによれば、子イヌの誕生直後から、仰向けにして軽いボディータッチを行なったり、両手で持ちあげるなどのハンドリングをしたところ、成長後に、学習意欲の高い、健康なイヌになったということです。

 

これは確かに効果が認められます。私か育てたゴールデン・レトリーバーは、生後間もない時期から多くの人の愛撫を受けて育ちました。日々のハンドリングを受けるのは、ほんの短時間でしたが、たんにストレスに強くなっただけでなく、知能の向上にも役立ったようです。能力に「伸びしろ」ができたのです。

 

「伸びしろ」について簡単にふれておくと、特別なしつけをしなくても、この犬は私の意図を巧みに読み取りました。たとえば「ツケ」のトレーニングをしなくても、きちんと横について歩くようになりました。リードを引っぱることもまったくありません。観察力と洞察力に富んだイヌに成長したのです。

 

このようにしつけは生後間もない時期から開始するのが望ましいのですが、ある程度大きくなってからでもきちんとした方法でしつけをすれば観察力と洞察力に富んだイヌに成長します。しつけの方法は色々ありますが、ここで紹介されている方法がやりやすいしつけの方法だと思います。

 

この時期は、神経系が未発達な時期だけに、軽いストレスを与えることが、脳のニューロン(神経細胞)の動きを活性化すると考えられます。もちろん肉体的に脆弱な段階なので、強すぎる刺激は避けなければなりません。

 

この、子イヌをなでる効用は、オキシトシンによって科学的に説明できます。オキシトシンは、アミノ酸系の神経伝達物質ですが、血中にもあふれることからホルモンとしても働いています。従来、出産後のヒトの母親に乳の分泌をうながすことが知られていました。また、母イヌのオキシトシンは、子イヌに鎮静作用をもたらしているようだ、と言われていました。

 

哺乳類の赤ちゃんをなでることが、オキシトシンの分泌を促進し、安心感と意欲を生み出すことを証明してみせたのが、スウェーデンの生理学者シヤスティンーモベリです。

 

モベリの研究では、母親から引き離された赤ちゃんラットを、やわらかいブラシで1分間につき40回なでたところ、オキシトシンの分泌量が増大し、行動に落ち着きが出て、他の個体への興味や関心が強まっただけでなく、学習能力も高まったということです。

 

5分間をわずかに下回る時間なで続け、特に腹部をタッチすると、最も効果をあげるようです。また、人に頻繁になでられたラットは、母ラットにふつうに育てられた個体と比べ、成長スピードの点で、見劣りがなかったとも報告されています。

 

すべての哺乳類に備わっているこのオキシトシンは、セロトニンやドーパミン、ノルアドレナリンなどの神経伝達物質と影響しあい、血流と神経を介して体内の調節機能をになっています。モベリによれば、オキシトシンは自律神経の「協調」にかかわっているということです。

 

自治医科大学と、麻布大学の比較認知科学者の合同研究チームは、オキシトシンが人間とイヌのあいたで、どんな役割を果たすか、初めて科学的に突きとめました。

 

実験は以下のように行なわれました。まず、55組のイヌと飼い主を対象に、おたがいの絆の深さについてアンケートをとり、その結果、「良好」と判断した飼い主をAグループに、「普通」と判断した飼い主をBグループにふり分けました。

 

そうして、それぞれのイヌと飼い主が、室内で30分間ふれあった後、研究チームは、実験の前と後の飼い主の尿に含まれるオキシトシンの濃度を測定しました。すると、Aグループの飼い主13人の実験後のオキシトシンの濃度は大きく上昇していました。

 

一方、Bグループの42人には、変化が見られませんでした。Aグループは、Bグループの約1.5倍の濃度を示したということです。また、Aグループの実験のようすを撮影した映像を分析すると、イヌの注視に応えてやりとりした回数が多いほど、実験後のオキシトシンの濃度が高くなっていた、と報告されています。

 

人がイヌの体をやさしくタッチすることで、イヌのオキシトシン濃度が高くなるだけでなく、人のオキシトシン濃度も高まる。オキシトシンのこの双方向性が、人間とイヌの両方に、幸福感をもたらすということのようです。

 

年間8万頭以上がガス室送りに

 

さて、ここからは、流行犬種が次々に出まわる「供給過剰」ともいえるペット市場の裏側に目を向けてみましょう。

 

まず、注目すべきは、ここ数年、特に「リーマンーショック」以降におきている新しい問題です。

 

不況でイヌを手放す人が増えているのです。具体的な話をしましょう。

 

たとえば、年間120頭ほどのイヌを保護している和歌山県の動物保護団体ワンライフでは、経済的理由で飼育をあきらめた飼い主から、里親探しの依頼を受けることが、急速に増え始め、翌年には全保護件数の約20%を占めるようになったということです。

 

彼らがイヌを手放す理由は、「会社が倒産し、家が競売にかけられる」「ペット不可のアパートに引っ越すので、もう飼えない」「勤務先から解雇を通告され、フード代が捻出できない」といったものです。

 

また、「繁殖場の規模を縮小したいのでイヌを引き取ってほしい」という、ブリーダーからの依頼も増えています。「産ませれば産ませるほど赤字になる」と惨状をぼやいているそうです。2009年には、繁殖場からの引き取りが保護犬の過半数を占めたといいます。

 

ブリーダーから引き取りを依頼されるほとんどが雌犬で、みんな健康状態は最悪です。疥癬などの皮膚病や乳腺腫瘍にかかったり、歯がボロボロに欠けたり、関節が曲がったり、というイヌがざらにいるそうです。

 

しかし動物保護団体が手を差し伸べられるイヌの数はごく限られています。

 

環境省によれば、2008年に、全国の自治体の動物管理センター(保健所)に引き取られたイヌの数は、成大9万810頭、幼齡犬2万2678頭となっており、このうち返還・譲渡されたのは、3分の1に満たない3万2774頭で、8万2464頭が殺処分されています。

 

引き取られたイヌのほとんどは、イヌの所有者によって持ち込まれたイヌです。「返還」というのは、何らかの事情で迷い犬になったのが飼い主のところに無事戻されたということで、「譲渡」というのは、新しい里親に引き取られたということです。

 

譲渡先が見つからなければ、ふつう長くても一週間以内に殺処分されます。そのほとんどは、炭酸ガスによる窒息死です。安楽死にはほど遠く、イヌたちは怖れおののきながら、特に旧式のガス室の場合、少なくとも十数分間もがき苦しみながら死に至ります。なかには一度のガス噴射では絶命せず、断末魔の中で痙攣しつづける犬もいるということです。

 

また、多くの「収容施設」は劣悪な状態で、地球生物会議(ALIVE)が行なった調査によれば、日本の100自治体のうち、日光のまったく入らない施設を使っている自治体が34、通風装置のない施設を使っている自治体が5あったということです。この
件については、国会の環境委員会でも問題視されています。

 

それにしても、捨てられる幼齢犬が全体の20%近くを占めているのは、なぜでしょう?

 

この数字からは、一般の飼い主からの持ち込みだけでなく、イヌの繁殖や販売にかかわる業者が、遺伝性疾患などの病気で「商品価値がない」と判断した子イヌをかなり多く持ち込んでいる、ということが読みとれます。

 

各自治体にイヌの処分を依頼する際には、「犬の引き取り申請書」に、持ち込む理由を記すことになっています。この申請書は、情報公開請求によって閲覧することができます。最近の開示請求による調査によって、おおまかですが日本国内の全体像がわかってきました。

 

「吠えてうるさい」と「人や他のイヌを咬む」という問題行動によるものが、少なくとも16%に達しています。「吠えてうるさい」と「人や他のイヌを咬む」は同じくらいの比率で、それぞれ8%ほどを占めています。また「転居」は約10%、「金銭的な問題」を理由にしているものはわずか1%程度、「けがや病気、老齢」は約13%です。「飽きた」「離婚した」といった理由も目立ちます。なかには、イヌの臨終を見届けたくないから捨てるという飼い主もいるようです。未記入の申請書もかなりあるので、以上の割合は、おおよその数値です。

 

私か実際に見たものでは、理由の欄に「買飼手(ママ)が見つからないから」と書かれ、一度に子イヌが7頭持ち込まれている事例がありました。この申請書の「処置」の欄には、同日の日付で「方法 ガス」と記入され、担当者の捺印がされています。子イヌはその日のうちに殺処分されたのでしょう。

 

こうして見ていくと、日本のイヌが置かれた状況の異常さが浮き彫りになってきます。残念です。しかし、現状を素直に認めることから始めていくしかありません。

 

お犬様

 

飼い主のいないイヌは、通りに寝そべったり町をうろついたりしている。もしここに、キリスト教宣教師がやって来たら、その身につけている服を見たイヌにちょっかいを出されるだろう。

 

何匹もの野犬に取り囲まれ、吠えられ、牙を向けられても我慢しなければならない。手出しすることが禁じられている。一匹でも殺してしまったら、死刑を覚悟しなければならない。どの町にもこうしたイヌを保護する役人がいる。問題のあるイヌの処置はこうした役人にお伺いを立てなければならない。

 

彼らだけが処分する権限を持っているのだ。町のどの通りも決められたイヌの数を飼い、あるいは給餌することが義務付けられている。犬舎やイヌの病院が町のあちこちにあり、病気のイヌがいたらそこまで運んでやらなければならない。死んだイヌは小高い丘の上に埋葬することになっている。そこは本来人開か埋葬されるところである。そこで丁寧に葬られるのだ。

 

イヌの死骸を丘の上の埋葬所に運ぶ男が、いったいなぜ、こんなおかしな法令があるんだ、皇帝が戊年に生まれたのを恨むよ、とぼやいた。それを聞いた連れの男は、言葉に注意した方がいいぞ、それよりも皇帝が午年生まれでなかったことをありかたく思ったほうが少しでも気休めになるぜ、と答えたそうだ。

 

この国とはどこでしょうか?

 

実はこれは、1852年にニューヨークで出版された『日本1852 ペリー遠征計画の基礎資料』という本の中の一節です。刊行されたのは、日本に開国をせまった海軍提督ペリーが、バージニア州ノーフォークを出発する4ヵ月前のことです。

 

同書のこのくだりは、19世紀のヨーロッパ人が日本のイヌ事情をどう見ていたかという点で興味をそそります。

 

よく知られているように、徳川五代将軍、綱吉の時代の施政では、イヌが「寵愛」されました。

 

冷静に判断すれば、同書はこう評されるべきかもしれません。綱吉のきわめて特殊な政策によって生まれた日本のイヌ事情を、特殊なアプローチで解釈し、記述したもの。著者のチヤールズ・マックファーレンは日本を訪れていません。当時の日本は鎖国です。この地誌学者は、日本に赴任したオランダ人やドイツ人などの見聞録や日本を訪問した人物との会話を通して得た情報をもとに書いています。なかには伝聞の伝聞という部分もあるかもしれません。偏見もアリ、誇張もアリ、勘違いもアリでしょう。そして何よりタイムラグがあります。綱吉によって最初の「生類憐みの令」が発布されたのは、刊行の165年も前の1687年です。

 

しかし私には、この記述の中に、現代の日本人がイヌと付きあう上での、あるヒントが隠されているように思えるのです。